最高裁判所第三小法廷 昭和39年(行ツ)61号 判決 1966年2月08日
上告人
板垣宗男
被上告人
科学技術庁長官
上原正吉
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について。
論旨はるる陳述するが、その趣旨は、上告人が本件試験の結果の判定の誤りであることを十分主張立証しており、被上告人が不当に上告人の合格を拒否しているのにかかわらず、原判決がこれを司法審査に適さない事項として救済を認めないことは、違法であり、上告人の幸福を追求する権利を尊重しないもので、憲法一三条の趣旨にも反するというにあるものと認められる。
しかし、司法権の固有の内容として裁判所が審判しうる対象は、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に限られ、いわゆる法律上の争訟とは、「法令を適用することによつて解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争をいう」ものと解される(昭和二九年二月一一日第一小法廷判決、民集八巻二号四一九頁参照)。従つて、法令の適用によつて解決するに適さない単なる政治的または経済的問題や技術上または学術上に関する争は、裁判所の裁判を受けうべき事柄ではないのである。国家試験における合格、不合格の判定も学問または技術上の知識、能力、意見等の優劣、当否の判断を内容とする行為であるから、その試験実施機関の最終判断に委せられるべきものであつて、その判断の当否を審査し具体的に法令を適用して、その争を解決調整できるものとはいえない。この点についての原判決の判断は正当であつて、上告人は裁判所の審査できない事項について救済を求めるものにほかならない。従つて、この点に目を蔽つて、一途に上告人の答案が正解であり、不合格判定を維持することが放任されるのでは憲法の趣旨に反するものと主張する所論は、正鵠を失するものであつて、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(五鬼上堅磐 横田正俊 柏原五六 田中二郎 下村三郎)